MINOTAUR INST. × THINK AND SENSE 『街の音』を色と模様へ変換したグラフィックTシャツができるまで
松山周平/ Shuhei Matsuyama 1991年生。ビジュアルアーティスト&プログラマー。株式会社ティーアンドエスではTHINK AND SENSEの部長を務める。先端技術を生かした展示やアート、インタラクティブなパフォーマンスを得意としており、マイクロソフトのMRデバイス『HoloLens』を活用した『Pokémon GO AR展望台』『AR Roppongi x Ingress』などに携わる。クリエイティブレーベルnor所属。著書に『Visual Thinking with TouchDesigner』がある。 |
第1弾インタビュー『MINOTAUR INST. × THINK AND SENSE「最終ゴールはムーブメントを作ること」』>
「まさに一期一会。同じものを作ってと言われても難しい」
────前回のTシャツは『インターネット上に構築されたオルタナティブな都市』を表現し、Instagramに投稿された無数の写真から構成しているとのことでした。第2弾では音がテーマですが、制作過程を教えてください。
まず、今回も都市そのものの情景ではなく、間接的な都市を取り巻く要素を素材として取り上げ、今回は渋谷でフィールドレコーディングを行ったサウンドを素材としました。
前回は大量のデータから一つの絵を作っている、という手法でのジェネレーティブアートでしたが、今回は音という時間軸を持った素材がベースとなるため、生成させるヴィジュアルはフレーム単位でのシーケンスを持ったものになります。そのためフレーム単位で大量生成されるヴィジュアルの素材を入れかえ、ジェネレーションのパラメータを調整していくことで、ジェネレーションのチューニングを行いMINOTAUR INST.とデザインをアートディレクションしていくという手法で制作しました。
おそらくこの方法は、既存のファッションやイラストレーションではやっていない作り方です。無限に生成されるジェネレーティブアートですが、無数に生成されヴィジュアルをキュレーションしていくということが今回の制作方法です。
──様々なデザインができていたようですが、その都度異なる音をプログラムに入れているということですか?
というよりもパラメーターを調整する感じですね。ただ、1秒間に最大60個のデザインができるので、作りすぎると選ぶ作業が大変ではあります(笑)。実際にTシャツに描かれているデザインは音で言うと一瞬です。音のシーケンスの長さの分だけデザインができるので、その中から選び取る作業をしています。
今回、取り入れた音は僕たちが実際に渋谷の街中で録ってきたモノです。渋谷らしい音を探して、スクランブル交差点や銀座線の旧ホームでも録音しました。
──なるほど。Tシャツのデザインを作成するにあたって、今回は渋谷の音録りから始まったのですね。
そうなんです。つまり今回で言うと、この『音』が『絵具』的な役割ですね。
Tシャツのデザインを考えるにあたって一般的には、「こういう方向性で行きましょう」と話し合ってから制作に入ります。そこから実際にデザインができて、確認して、また作り直してという作業を繰り返します。でも、僕たちはテーマだけを決めて、それに合わせてシステムを作って、プログラムに大量に書き出しさせてピックアップしています。
その中で「もうちょっと余白がほしい」などの要望があれば、その要素だけチューニングして、もう一度システムに書き出しさせてゴールに近づけるという作業です。アートディレクションは人間が行っていますが、デザインそのものはシステムが作っているのが特徴ですね。
──形だけでなく色も様々なパターンがあるようですね。そこは人間が調整しているのですか?
チクチク僕たちが調整するというよりは、音の波形が生成するパラメーターは一意性がないので、それによって生まれてくるものが変わってきます。まさに一期一会な感じですね。なので同じものを作ってと言われても逆に難しいです。
────なるほど。今回の『街の音からジェネレーションしたグラフィックTシャツ』は4種類発売していますが、生まれたデザインをそのまま生かして、異なるデザインのTシャツをたくさん世の中に出すという案はなかったのですか?
それだと意味が結構変わってくるんですよ。プログラムが作ったものをそのまま発表すると、それはただ単にプログラムがデザインしたTシャツです。プログラムが作ったモノだけど、それをアーティストやデザイナーがアートディレクションして、「これがカッコイイ」とか キュレーションした上でセレクトしているかでは全く別物になってきます。
アートディレクションというプロセスを挟んでいることで、ブランドのコレクションの一環の作品として発表できます。
──『ブランドのコレクションとして』というワードが出ましたが、気を付けたことはありますか?
そこは明確で「これはファッションブランドの製品だから商業デザインでなきゃダメだよ」と結構言われました(笑)。アート作品の場合できたものを無加工で、ディテールを整理したりせずあるがままを出すことが多いですが、ファッションとして成立させるためには、商業デザインであるという視点が必要です。
例えばアートだったら鑑賞者が理解することを求めない分からなすぎるモノでもありですが、これは商業デザインなのでそれではいけません。音を想起させる波形の模様をヴィジュアルに居り混ぜることや、音を収録した渋谷のスクランブル交差点の座標の数字を模様の一部に入れるなど、背景やストーリーを想起させる要素を意図的に配置し、見る人にデザイン全体の意味を感じてもらう事のバランスを取ることが重要でした。
──深いですね。次は第3弾のデザインについて聞かせてください。