脇田玲×MINOTAUR INST. 「ストリートカルチャーとはまさにハック」
脇田玲 (わきた あきら) アーティスト/ 慶應義塾大学 環境情報学部 学部長 科学と現代美術を横断するアーティストとして、数値計算に基づくシミュレーションを駆使し、映像、インスタレーション、ライブ活動を展開している。Ars Electronica Center, WRO Art Center, Mutek, 清春芸術村, 日本科学未来館, Media Ambition Tokyo, 2121_DESIGN SIGHT などで作品を発表。主な展示に「高橋コレクション『顔と抽象』-清春白樺美術館コレクションとともに」(2018)、日産LEAFと一体化した映像作品「NEW SYNERGETICS -NISSAN LEAF X AKIRA WAKITA」(2017)などがある。http://akirawakita.com/ |
「ただ闇雲に新しいものを求めるということではない」
泉(MINOTAUR INST.デザイナー) 今は松山くんとグラフィックをセッションさせてもらっているんですが、Tシャツの技法やデザインは昔行っていたことの繰り返しというのが多いんです。でも、僕が興味あるのは「何かが起ころうとしている、起こっている」という場面に携わることで。そういうものが僕にとってのファッションのワクワク感だったんですけど、そのファッションがかつての流行や手法を繰り返している部分にはワクワクしなくて。だから過去に見たことないようなものを作るためにも、ジャンルが全く違う松山くんと一緒にやっていて、それがすごく楽しいんですよね。
脇田 すごくよく分かります。技術は新しい様式を生み出しますが、その様式はただただ繰り返されてしまったり、もしくは取り合いになることが多いですよね。それを打破するには異質の人とコラボレーションするのが大事な気がします。明らかに自分一人では到達できなかった世界が見えて来るし、そこから新しい軸がもう一つ見えてくることもあります。それこそ松山さんと泉さんは畑違いの2人がコラボレーションしていると思いますが、本質的なところが繋がっているんでしょうね。
松山(MINOTAUR INST.コラボレーションクリエイター) そうですね。コラボレーションを始めた頃から、あまりすれ違っている感じはしませんでした。このメディアでは『ポストストリート』という言葉を使っていますが、現在の一種のクラシックなストリート観より現代的なスタイルをテクノロジーとファッションが交じり合うことで見つけることができないか? と思っています。
Dismantling Awe / Installation / 2018
脇田 それはすごく面白いですね。確かに現代的なスタイルやテクノロジーを使いつつもアウトプットからは確実にストリートを感じることができます。
松山 あと単純にテクノロジーを駆使することで、今までコツコツ手で作っていたものが、コンピューターやインターネットのパワーで大幅に短縮したり、膨大な数のクリエーショが可能になる場面が出てきました。それをうまく使いこなしている感じというか、ハックしているような。そういうニュアンスがファッションから見てもかっこいいんだろうなという意識はあります。
脇田 ストリートカルチャーってまさにハックなんですよね。都市の構成物をブリコラージュして、当初想定されていなかった使い方をしながら遊びを開拓していく。で、それはコンピュータカルチャーの本来の意味でのハッカーマインドと類似しています。西海岸のIT企業の支援者には、ストリートカルチャーサイドの人が多いことも無関係ではない気がします。
Dismantling Awe / Installation / 2018
脇田 日本ではそういう感覚はないかもしれないですけど、アメリカではヒップホップ黎明期の人々がスタートアップの投資とかをやっているわけで、Dr.Dreなんかはその象徴です。The WeekndはトロントでHXOUSEというスタートアップ支援をやっていて、デザインスクールとコラボレーションしたり、まさに社会システムをハックしている存在かなと思います。
泉 ニューヨークのブランドをインポートする仕事をしていた頃は、ファッションやカルチャーがどのように生まれてきて、どういう人が象徴的になってなぜブランドが広まっていったかという流れを90年代から何周も見てきました。時代によって使っているツールは変わってくるけど本質は同じ。そういうのを1周2周と見て気づいたことは、やっぱり今の僕らがリアルタイムに生きている時の本質として、今のツールを使って生まれるのものが、その方たちのリスペクトだと僕は思います。その時代を超えて世代を超えて共有したいというのが、僕のモチベーションなんですよね。日本だと『ファッション=装い』というジャンルでとらえている人が多いと思います。でも、僕はもともとインポートの方から始まっているので真似とか飾るというジャンルよりも、その人自身とかその地域のリアリティあるコミュニティ、考え方、文化という人間味のある側面そのものが、カルチャーでありファッションだと思います。
脇田 すごく分かりますし、最初の話と繋がりますね。その時代の文化やテクノロジーというものもファッションであると。オープンソース的なものもファッションだし、ヒップホップ的なものもファッション。それはThe Way to do somethingで、表層だけじゃないわけですよ。そういう視点で見ると今の状況はすごくきれいに整理できる気がします。文化やテクノロジーを串ざす眼差しを持つと、そこにある種の通底するファッションが見いだせるんですね。
泉 ファッションをグラフィックしたり、そのファッションを自分たちもより知っていくためにも、こういうインタビューとか脇田さん達のディスカッションを通して、新しい気づきを得たり共感することでムーブメントになっていくのかなと思いました。
松山 今日のお話を聞いて、ファッション×テクノロジーが可能にする新しい軸を求めるよりは、今の時代にフィットする本質とは何だろう? というのを追っているのかもしれないと感じました。
脇田 ただ闇雲に新しいものを求めるということではない。今だからこそ、見えてくる本質。面白いですね。