伊藤東凌×MINOTAUR INST. 「場所にとらわれない技術ができたことは、自分にとってもすごく大きなこと」

伊藤東凌/ Toryo Ito
両足院副住職
田畑、食、庭園、建築、アート、サウナ、セルフケア、レジデンス、埋葬、循環などを再構築して“質”を取り戻す集落としての寺を考案中。
禅が育む美と叡知の探求プロジェクト「是是XEXE」を主宰する。2020年4月オンライングローバル坐禅コミュニティ「雲是」を立ち上げる。2020年7月禅瞑想アプリ「InTrip」をリリース。2021年1月新しいモビリティ「FUUUN/浮雲」を監修/リリース

伊藤東凌×MINOTAUR INST.「親の代から受け取ったものを、継ぐことだけが伝統ではない」

「文明の発展で様々なことが起きてきたが、今の時代だからこそできることもある」

泉(MINOTAUR INST.デザイナー) 作務衣作りをご一緒させていただく上で、650年もの歴史がある両足院さんの東凌さんとしては判断すること自体が大変だと私は思っていました。でも、こうやって実際にいろいろなことをお聞きしてみると、実はそういった新しい発想はポジティブな展開で物事が起きていたことが分かりました。

東凌 作務衣も長い歴史があるように見えますが、単純に現代における作務の意味自体が昔とは変わってきています。そこは服に関しても同じで、お坊さんが履く足袋をとっても、昔と今の日本人は明らかに体形が変わってきているのに、昔のフォルムにこだわり続ける必要があるんだろうかと思ったり。そもそも『作務』とはお寺での作業を表す言葉なので、作務衣は昔だったら村仕事やお寺の畑のお世話する時に使うものと、お経を読む時に使う法衣という分け方でした。

東凌 でも、今は人と会ってお話をする時やお茶を入れる時の衣という要素もあって、人と気持ち良く会うための服装でもあるので、作業着とはまたちょっと違うんですよ。正直、作業着という面だけで考えたら、作務衣にこだわる必要があるのかなと考えたこともあります。今はいろいろな服がありますからね。そういう意味では、昔からの作務衣のままで良いのかと悩み続けていたので、今回、MINOTAUR INST.さんにお声掛けいただいて新しい作務衣を着てみた時に、思っていた以上に「こうなるのか!」という見た目だけでは分からない、着た時にスッと分かったあの感覚は素晴らしいと思いました。

泉 この作務衣はMINOTAUR INST.の商品としても販売していて、若い方たちはカッコいいと言って買ってくれた方が多かったんです。逆に言えば、皆さんがリピートして着ているものは、若者からするとカッコいいという要素を持っている。そのことをいろいろな世代の方に知っていただきたいなと思いました。感覚的に良いなというものを時代を超えて思えることが僕がやりたいことでもあるので、先ほどの点と点が繋がった部分がこの作務衣を通して感じることができて楽しいです。

東凌 今、仰った感覚は自分もすごく共感できるところがあります。お寺の活動でも、説教っぽくならず「素敵だな」という感覚で来ることができる場にしたいですね。掛軸や屏風は伝統的な美しい型ですが、その型のメディアだけにとらわれる必要もなくて、今はいろいろなものを使える時代です。松山さんともご一緒させていただいていますが、今はもっとダイレクトにいろいろな世代に思いを届けるメディアがあるので、服もそういった意味では一つのメッセージがこもったメディアだと私は考えています。なので、これからもどんどん表現や挑戦をしていきたいですね。

東凌 これまでの仏教の長い歴史を見ても、いろいろな文明の発展で様々なことが起きてきましたが、今の時代だからこそできることもあるし、その時代にいる自分はラッキーだなと思います。お寺は場所そのものに絶対的な意味がありました。ただ、そうなるとお坊さんは場所に縛られて、そこに奉公するのが当たり前になります。でも、今はインターネットがあるおかげで、このインタビューのようにオンラインで対談できたり、それによってお寺が持つ歴史や文化、知恵を波及させる方法も変わりました。もし、こういう時代でなかったら、自分もこの場所をとにかく大切にすることだけに集中していたかもしれません。こういった場所にとらわれない技術ができたことは、自分にとってもすごく大きなことですね。

松山(MINOTAUR INST.コラボレーションクリエイター) なるほど。例えばカルチャーも場所があるから生まれるのではなく、そこに集まった人の営みがあるからできたのがカルチャーだと思うんですよね。場所が重要なのではなくて、そこに人が集うから生まれる。今のネットワークの世界だと、そういう営みも場所にとわられずに引き寄せられるようになってきている。そう考えると、ストリートカルチャーも、場所から発生するものではなくなるなと。泉さんと一緒にグラフィックTシャツのデザインをしていますが、渋谷に行かなくても渋谷のデータを使ってTシャツを作ったりしています。作業は自宅でしていても、そのマインド自体がストリートカルチャーだね、と泉さんとも話しているんです。なので、テクノロジーが進歩していくことがカルチャーに多大な影響を与えていて、さらにはお寺にも大きな影響を与えていることは非常に興味深いです。